2025年8月03日

人間ドックを受ける際、「どのオプション検査を選ぶべきか」で迷われる方は少なくありません。生活習慣や年齢、家族歴などによって、必要な検査は異なります。せっかくの検査を無駄にしないためには、自分に合ったオプション選びが重要です。医師からみると、このオプション別に選ばなくていいのに、このオプションは選んだほうがいいのに、ということが多々あります。この記事では、医師の視点から選び方のポイントを解説します。
人間ドックのオプション検査とは?
人間ドックのオプション検査とは、基本コースに加えて個別に追加できる検査項目のことを指します。基本コースでは一般的な健康状態のチェック(血液検査・尿検査・胸部レントゲンなど)が行われますが、オプション検査では、より専門的で詳細な検査が可能です。たとえば、脳ドック、内視鏡検査、がん腫瘍マーカー、心臓や血管のCT検査、婦人科検診などが含まれます。
これらの検査は、自覚症状がない段階で病気を早期発見できる可能性があり、リスクや家族歴がある方には特に重要です。また、加齢やライフスタイルの変化に応じて各検査の必要性が出てくることもあり、健康への投資として積極的に検討される方が多いです。
しかし、実際どの検査を選べば必要十分なのか、わかって選んでいる方はほぼ皆無です。
オプション検査は必要?基本コースとの違い
人間ドックの基本コースは、一般的な健康状態の確認を目的としており、生活習慣病や内臓の異常を広くチェックします。しかし、すべての疾患を網羅できるわけではなく、いくつかの病気やリスクに焦点を当てた検査は含まれていないことがほとんどです。
そこで必要になるのが、オプション検査です。たとえば、がんの早期発見を目指す腫瘍マーカー検査や、脳梗塞・脳動脈瘤を調べる脳MRI、心筋梗塞のリスクを把握する心臓CTなど、目的に応じた検査を追加していきます。
オプション検査は全員が受けなくてもいいが、「個人のリスクを補うための追加項目」と考えるとよいでしょう。年齢や家族歴、生活習慣に応じて必要性が異なるため、基本コースに入っていませんが、医師と相談して最適な選択をすることが大切です。
年代・性別・ライフスタイル別おすすめオプション
人間ドックのオプション検査は、年齢や性別、生活習慣によって必要な項目が異なります。以下に、状況別におすすめの検査をまとめました。
年代・性別など | おすすめオプション |
---|---|
20〜30代 | ・腹部エコー(基本コースに入っていなければ) ・感染症(ピロリ菌・肝炎ウイルス) ・便潜血検査 ・子宮頸がん検診(女性) ・乳腺エコー±マンモグラフィ(女性) |
40〜50代 | ・腹部エコー(入っていなければ) ・胃カメラ・大腸カメラ ・腫瘍マーカー(女性CA125、男性PSA) ・脳MRI(数年に1度でも) ・乳腺エコー±マンモグラフィ(女性) ・骨密度検査(骨粗鬆症予防) |
60代以上 | ・肺CT(早期肺がん、タバコ吸わなくても) ・胃カメラ・大腸カメラ(お元気なら) ・腫瘍マーカー(女性CA125、男性PSA) ・腹部エコー ・乳腺エコー±マンモグラフィ(女性) ・骨密度検査(骨粗鬆症予防) |
女性におすすめのオプション | ・子宮頸部細胞診(婦人科) ・乳腺エコーorマンモグラフィorMRI ・腫瘍マーカー(CA125、CA15-3) ・骨密度検査(50代〜骨粗鬆症の早期発見+進行予防に) |
喫煙歴・肥満・飲酒がある人 | ・肺CT(肺がんや肺気腫の評価) ・SCC/CYFRA(咽喉頭食道がん肺がん) ・胃カメラ(咽喉頭食道がん) ・腹部エコー(肝炎、肝硬変、肝臓がん) ・頚動脈エコー(動脈硬化やプラーク) |
家族歴・既往歴がある方のための検査選び
家族に特定の病気を患った方がいる場合、ご自身もその疾患のリスクを抱えている可能性があります。
人間ドックでは、個人リスクに応じたオプション検査を選ぶことも大切です。
がん家系の人はどの検査を選ぶべき?
腫瘍マーカー検査
特定のがんのリスクが気になる場合、そのがんの腫瘍マーカーを選ぶとよいです。ただ、多くの腫瘍マーカーは進行がんでないと反応しないため、実は早期発見に有用な腫瘍マーカーは限定されます。
おすすめ腫瘍マーカー
・卵巣がん・子宮体がんのCA125(女性)
・前立腺がんのPSA(男性)
・肺がん・咽喉頭がん・食道がんのSCC/CYFRA(喫煙・飲酒多い人)
・消化器がん全般で上がるCEA
・肝臓がんAFP/PIVKA
内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)
・消化器系のがんが心配な方と、40代以上の方全員に
・ピロリ菌が過去に居た方は胃カメラ毎年
・大腸カメラは大雑把に言うと2-3年毎に
超音波内視鏡検査(膵臓カメラ)
膵臓がんが心配な方、膵のう胞がある方へ。
超音波内視鏡検査とMRIが膵臓がん早期診断の要です。超音波内視鏡検査は太いカメラがのどを通ってのどを痛めたりすることもあるので、あまり頻繁にはおすすめされませんが、超音波内視鏡検査を半年~1年毎に繰り返すことで膵臓がんで命を落とすことを回避できるという論文もあります。
個人的には負担も大きいので、よくやられているMRIと膵臓カメラを半年毎に交互という方法がよいと思います。大事なのはMRIも膵臓カメラも、膵癌早期診断に精通した医師に診てもらうことで、ただやれば、その検査を受ければOK、というものではありません。
肺CT
皆さまが受けている肺のレントゲンだけだと、肺がんの早期発見=助かる可能性が案外高くありません。小さな段階で見つけるには肺CTが必要とされますが、それでも難しいことも多いようです。
40代を過ぎたら年1回肺CTを受けてもよいかもしれませんが、まだ答え(エビデンス)がしっかり出ていない印象です。
大事なことは、肺がんになる方の半分以上はタバコを吸ったことがないという事実です。
乳腺エコー/マンモグラフィ/MRI
20代以上の女性全員に。
よくあるのはエコーとマンモグラフィーを毎年交互に、ですがそれが本当に正しいのかは不明です。エコー検査は被曝もなく無害ですので、半年~1年毎に行ってもよいのでは?と思います。マンモグラフィが苦手でしたらエコーだけでも十分意味があると思います。
当院では専門資格を持った女性技師が検査を担当し、わずかでも異常があれば信頼できる病院へ紹介します。特に乳がんのリスクが高い方は、乳腺MRIを定期的に撮るのが一番精度が高いと言われています。
前立腺エコー/MRI
前立腺がんの中でも悪性度が高いものは腫瘍マーカーのPSAがあてにならないことがあります。悪性度が高い場合、そもそも進行も速いので厳しいこともありますが、PSA以外で拾うとなるとエコー検査やMRI検査になります。通常の人間ドックの腹部エコー検査では下腹部を診ないため、オプションになっている場合は選択しましょう。
当院では下腹部エコーの重要性がわかっているため、腹部エコー検査の際は毎回下腹部までチェックするようにしております。
子宮卵巣エコー/MRI
婦人科検診と言いますと、現在ほとんどが子宮頚がんの擦過細胞診だけで、子宮体がんや卵巣がんのチェックが抜けている方が多いです。具体的には婦人科での経腟エコーや、体外からの下腹部エコーで子宮卵巣を直接診る必要がありますが、経腟エコーはご存じ結構大がかりなので、当院では腹部エコーの際に下腹部もちらっと診てもらうようにしています。通常の人間ドックでは腹部エコーで下腹部まで診ないことも多いですが、オプション検査で下腹部エコーが別になっている場合はぜひ選択しましょう。
また子宮卵巣の病気がご心配な方は、婦人科で精密検査として行われるMRIを検診の段階でオプションで選択することもできます。何か心配があるときはMRIを検討されてもよいでしょう。
膵MRI(MRCP)
膵臓がんのご家族が居る方、膵のう胞がある方は膵臓がんのリスクが高く、膵臓のMRIを一度は受けるべきでしょう。大事なのはそのMRIの結果を、膵癌早期診断に精通した医師に診てもらうことで、ここが難関です。
当院では必ず膵癌早期診断の経験豊富な院長が膵臓のMRIを確認するので、その難関をクリアすることができます。
DWIBS(全身がんMRIドック)
がんが心配な方で、一度に全身をチェックできるのでとPET-CTやこのDWIBSを検討される方が結構多いです。消化器がんの立場から言いますと、DWIBSで光ったらもう進行がんという印象がありますが、想定外の場所のがん(脳腫瘍・骨のがん・精巣がんなど)に気付ける可能性はあるので、受ける価値はあると思います。PET-CTは被曝もありますので、PET-CTとDWIBSでしたらDWIBSのほうがよいと思います。どうしても高価ですが、お金がある方は1-3年に1回くらい受けてもよいかもしれません。
脳卒中や心臓病の家族歴がある人におすすめの検査
脳MRI/MRA
脳梗塞や脳動脈瘤の有無を早期に把握できます。50歳前後でくも膜下出血でいきなり命を奪われないようにするには、40歳頃に一度脳MRIを受けるべきと考えます。
心臓CT・冠動脈検査
心筋梗塞や狭心症の可能性がある方に有効です。場合によっては心筋梗塞になる前に治療して未然に防げるかもしれません。
頸動脈エコー
動脈硬化の進行状況を確認できる検査です。これがあまり悪い結果ですと、さらなる心臓の検査などに進むべきと言う指標になります。
まとめ
人間ドックのオプション検査は、自分の年齢・性別・家族歴・生活習慣に合わせて選ぶことで、将来の病気を未然に防ぐ強い味方になります。基本コースだけでは発見しづらい疾患も、オプションを活用することで早期発見が期待できます。
特に、がん・心臓病・脳卒中といった重大な病気のリスクがある方は、検査項目をよく検討する価値があります。費用や時間に見合った健康への投資と考え、無理のない範囲で自分に必要な検査を選びましょう。
最適な検査選びのためには、医師と相談しながら、自分にとって本当に必要な項目を見極めることが大切です。
よくある質問
Q.すべてのオプション検査を受けた方が安心ですか?
A.確かにすべてのオプション検査を受けたら安心ですが、それはまるで競馬で全通りの馬券を買うようなもの、ファミレスでどのメニューを選べば正解か分からず全メニューを注文するようなものです。馬券や食事に比べると、命は最も貴重なものではありますので、力を入れてもよいのですが、結局はお財布やお体へのご負担との相談になります。特にCTや内視鏡検査など負担のかかる検査はやり過ぎると負担が大きいのでほどほどに、オプション検査はとにかく中庸を目指す必要があります。エコーやMRIや血液検査は負担少ないです。
Q.オプション検査は保険適用されますか?
A.基本的に人間ドックは自由診療であり、オプション検査も自費扱いとなります。ただし、異常が見つかり精密検査に移行した場合は、保険診療となるケースもあります。
Q.人間ドックは何年おきに受けるべきですか?
A.一般的には、年に1回の受診が推奨されています。特に40歳以上や生活習慣病リスクのある方は、毎年の継続的な受診が望ましいです。一方で20〜30代で健康に問題がない方でも、稀に大きな病気で命を落とすことがありますので、1〜2年おきのチェックがおすすめされます。