2024年8月05日
「膵臓がん」という言葉を聞くと、どんなイメージを持つでしょうか?もしかすると、「怖い病気」「治らない病気」といった、暗いイメージが浮かぶかもしれません。しかし、膵臓がんは早期発見・早期治療ができれば、決して「治らない病気」ではありません。
膵臓がんは早期には自覚症状が現れにくく、発見された時には進行しているケースが多い病気です。しかし、近年では早期発見のための検査技術も進歩しており、早期に発見し適切な治療を行えば、決して病名だけで悲観する時代ではありません。
このページでは、膵臓がんのステージ(病期)ごとの症状や治療法について詳しく解説します。ご自身の身体の状態を理解し、適切な治療法を選択するための一助となれば幸いです。立川市にある立川髙島屋S.C.大腸胃食道の内視鏡・消化器内科クリニックでは、超音波内視鏡検査(膵臓カメラ:隣の立川相互病院へ院長が出向し施行)やミルクティーエコーなど、膵臓がんの早期発見に有効な検査を選択可能です。
膵臓がんとは?
膵臓は、胃の後ろ側にある長さ約15cmの臓器です。消化液である膵液を分泌し、食べ物の消化を助ける外分泌機能と、血糖値を調節するホルモン(インスリン、グルカゴンなど)を分泌する内分泌機能の2つの重要な役割を担っています。
膵臓がんは、膵臓の細胞が何らかの原因でがん化し、無秩序に増殖する病気です。膵臓がんの約9割は、膵液を分泌する細胞から発生する「膵管がん」です。その他、ホルモンを分泌する細胞から発生する「神経内分泌腫瘍」や、膵臓内の様々な細胞から発生する「その他のがん」などがあります。
膵臓がんのリスクファクター(危険因子)としては、ご家族に膵臓がんの方がいる、糖尿病(新規発症、急な悪化)、膵のう胞、膵石、喫煙、肥満、慢性膵炎、急性膵炎、特定の遺伝子変異などが挙げられます。ただし、これらのリスクファクターがないからといって、膵臓がんにならないわけではありません。
膵臓がんのステージ
膵臓がんは、その進行度合いによってステージ0からステージIVに分類されます。このステージ分類は、TNM分類(腫瘍の大きさ・リンパ節転移・遠隔転移の有無)に基づいて行われます。ステージが進むほど、がんが進行していることを示し、治療法の選択や予後(病気の見通し)に影響を及ぼします。
ステージ | 腫瘍の大きさ(T) | リンパ節転移(N) | 遠隔転移(M) |
---|---|---|---|
0期 | 腫瘍が膵管内に留まっている | なし | なし |
I期 | 膵臓内に留まっている | なし | なし |
II期 | 膵臓内に留まっている | あり | なし |
III期 | 膵臓周囲の臓器に浸潤している | あり/なし | なし |
IV期 | 膵臓周囲の臓器に浸潤している | あり | あり |
各ステージの詳細な分類は、腫瘍の大きさやリンパ節転移の範囲によってさらに細かく分かれます。
ステージ0期の症状と治療
症状
ステージ0期の膵臓がんは、「High Grade PanIN」「膵上皮内がん」「非浸潤性の膵管内乳頭粘液性がん(IPMC)」などと呼ばれ、腫瘍は膵管内にとどまって悪さをしていない状態です。この段階では、自覚症状がないことがほとんどです。
治療
ステージ0期の膵臓がんは、手術によって完全に切除できる可能性がかなり高いです。手術の方法としては、膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術などが行われます。手術後の経過が良好であれば、追加の治療は必要ありません。
ただし、ステージ0期の膵臓がんは、診断が非常に難しいです(別の記事で詳述します)。また、ステージ0期の膵臓がんを手術した方は、残っている膵臓にも膵臓がんが発生するリスクが高く、手術後も定期的な検査を続けて、慎重に経過を追う必要があります。
ステージI期の症状と治療
症状
ステージI期の膵臓がんは、腫瘍が膵臓内に留まっており、リンパ節転移や遠隔転移がない状態です。この段階でも自覚症状がないことが多く、健康診断や人間ドックなどで偶然発見されることがありますが、ステージⅠ期でさえ、ときによって見逃されてしまうこともあります。
治療
ステージI期の膵臓がんでも、手術による腫瘍の完全切除が第一選択となります。手術の方法としては、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術などが行われます。腫瘍の大きさや位置によっては、腹腔鏡手術やロボット支援手術が選択されることもあります。
最近は、小さなステージⅠ期の膵臓がんでも、手術の前に2,3ヶ月間、抗がん剤を使ったほうが成績がよくなるというデータがでました。また、手術後の病理検査の結果によっては、再発予防のために手術後にも補助化学療法(手術後に抗がん剤を半年〜1年追加すること)が検討されることがあります。
ステージII期の症状と治療
症状
ステージII期の膵臓がんは、腫瘍が膵臓内に留まっていますが、周囲のリンパ節に転移が見られる状態です。この段階でも自覚症状がない場合もありますが、腹痛、背部痛、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、体重減少などの症状が現れることもあります。
治療
ステージII期の膵臓がんの治療は、手術による腫瘍の切除が可能な場合は、手術が第一選択となります。しかし、リンパ節転移があるため、手術だけでは根治が難しい場合があります。そのため、手術の前と後に化学療法を組み合わせた治療が行われることがあります。
手術が難しい場合は、化学療法や放射線療法を組み合わせた治療が行われます。これらの治療は、がんの進行を抑え、症状を緩和することを目的としています。
ステージIII期の症状と治療
症状
ステージIII期の膵臓がんは、腫瘍が膵臓周囲の主要な血管(腹腔動脈、上腸間膜動脈など)に浸潤している状態です。この段階では、腹痛、背部痛、黄疸、体重減少などの症状がより強く現れることがあります。
治療
ステージIII期の膵臓がんの治療は、手術による腫瘍の完全切除が難しい場合が多いため、化学療法、放射線療法、手術を組み合わせた集学的治療(色々な方法を組み合わせた治療)が検討されます。
まず、化学療法と放射線療法を併用し、腫瘍を縮小させます。その後、手術が可能と判断されれば、手術を行い腫瘍を切除します。手術後には、再発予防のために化学療法が行われることもあります。
手術が難しい場合は、化学療法や放射線療法を継続し、がんの進行を抑え、症状を緩和することを目指します。
ステージIV期の症状と治療
症状
ステージIV期の膵臓がんは、腫瘍が肝臓や肺など、膵臓から離れた臓器に転移している状態です。この段階では、腹痛、背部痛、黄疸、体重減少などの症状に加え、転移した臓器に関連する症状(咳、呼吸困難、食欲不振など)が現れることがあります。
治療
ステージIV期の膵臓がんは、残念ながら手術で完全に治すことはできません。治療の主な目的は、がんの進行を抑え、症状を緩和し、残された時間の生活の質を維持することです。
化学療法が主な治療法となりますが、がんの種類や患者さんの状態によっては、放射線療法や分子標的薬なども検討されます。また、痛みや吐き気などの症状を緩和するための緩和ケアも重要です。
近年では、新たな治療法の開発や臨床試験も進められており、治療の選択肢は広がっています。
まとめ
膵臓がんは早期発見が難しく、進行してから発見されることが多い病気ですが、早期に発見し適切な治療を行えば、助かる可能性があります。膵臓がんのリスクが高く心配な方も、決して悲観する必要はありません。治療法はステージ0期からIV期まで、それぞれのステージに合わせ方向性は異なりますが、治療成績は少しずつ改善傾向にあります。
立川髙島屋S.C.大腸胃食道の内視鏡・消化器内科クリニックでは、超音波内視鏡検査(膵臓カメラ:隣の立川相互病院へ院長が出向し施行)やミルクティーエコーなど、膵臓がんの早期発見に有効な検査を行っております。どうぞお気軽にご相談ください。専門医が丁寧な診療を心がけ、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供いたします。
膵臓がんについてよくある質問
1.膵臓がんは早期発見できますか?
はい、早期発見は可能です。しかし、膵臓がんは早期には自覚症状が現れにくいため、定期的な検査が重要です。詳細は別の記事に譲ります。特に腹痛、背部痛、黄疸、体重減少などの症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。当クリニックでは、超音波内視鏡検査(膵臓カメラ:隣の立川相互病院へ院長が出向し施行)やミルクティーエコーなど、膵臓がんの早期発見に有効な検査も行っておりますので、ぜひご相談ください。
2. 膵臓がんの検査にはどのようなものがありますか?
膵臓がんの検査には、血液検査、腫瘍マーカー検査、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査、超音波内視鏡検査(膵臓カメラ)などがあります。どの検査を受けるべきかは、患者さんの状態や症状によって異なりますので、医師と相談して決めることが大切です。
3. 膵臓がんの手術はどのようなものがありますか?
膵臓がんの手術には、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術などがあります。腫瘍の場所や大きさによって手術の方法が異なります。近年では、腹腔鏡手術やロボット支援手術など、身体への負担が少ない手術も行われています。
4. 膵臓がんの治療にはどのようなものがありますか?
膵臓がんの治療は、手術、化学療法、放射線療法、分子標的薬療法などを組み合わせた集学的治療が基本となります。ステージや患者さんの状態によって、最適な治療法は異なりますので、医師とよく相談して決めることが重要です。
5. 膵臓がんと診断されたら、セカンドオピニオンは必要ですか?
セカンドオピニオンは、必ずしも必要ではありませんが、診断や治療法について他の医師の意見を聞くことで、より納得のいく選択ができる場合があります。特に、主治医の先生が判断に悩んでいる様子がある場合や、難しい手術や治療法が検討される場合には、セカンドオピニオンが役立つことがあります。
6. 膵臓がんの治療にかかる費用はどのくらいですか?
膵臓がんの治療費は、がんのステージや治療法によって大きく異なります。手術の場合は、入院費や手術費、抗がん剤治療の場合は、薬剤費などがかかります。高額療養費制度などを利用することで、自己負担額を抑えることができます。
7. 膵臓がんと診断された後の生活で気を付けることはありますか?
膵臓がんと診断された後は、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、規則正しい生活を送ることが大切です。また、禁煙や節酒も重要です。医師や看護師の指導に従い、適切な治療を受けながら、日常生活を送りましょう。