福永先生が内視鏡学会でご発表されました【膵臓がん早期診断のための十二指腸液細胞診について】|立川髙島屋S.C.大腸胃食道の内視鏡・消化器内科クリニック

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福永先生が内視鏡学会でご発表されました【膵臓がん早期診断のための十二指腸液細胞診について】

福永先生が内視鏡学会でご発表されました【膵臓がん早期診断のための十二指腸液細胞診について】|立川髙島屋S.C.大腸胃食道の内視鏡・消化器内科クリニック

2025年7月26日

概要

先日、内視鏡学会の関東支部例会で、立川相互病院で院長谷口と一緒に膵臓がん早期診断に励んでいた福永先生がご発表されました。

立川相互病院時代に院長谷口が続けていた、膵癌早期診断における十二指腸液細胞診の有用性について、150例のデータをきれいにまとめてくださり、発表してくださったものです。

やや専門的な内容になりますが、今後当クリニックでも続けていきたいと考えている大事なテーマ「膵臓がん早期診断」「十二指腸液細胞診」になりますため、ご紹介させていただきます。

福永先生、本当にありがとうございました。

タイトル:膵癌早期診断における十二指腸液細胞診の有用性の検討

発表者:立川相互病院 消化器内科 福永清、谷口孝伸、石井宙生、永倉康佑、菅澤秀、中西彩夏、野澤信吾、橋本国男

抄録(要旨):膵癌は年々増加しており、予後改善のための膵癌早期診断は世界的な課題である。膵上皮内癌を切除する際には病理学的な悪性診断が望ましくSPACEが有用だが、SPACEは侵襲性の高く患者負担が大きい。可能な限り検査前確率の高い例に絞ってSPACEを行うため、当院では十二指腸液細胞診の手法を試みてきた。外来EUSの際、Vater乳頭周囲の十二指腸液を造影カテーテル+検体回収スピッツ+吸引管(40kPa)で2-3分間吸引し、最後に生食を吸引して管内の細胞をも回収する方法である。十二指腸液細胞診149例のうち148例(99.3%)で評価可能な検体が採取でき、採取に伴う合併症はなかった。結果はClass1/2/3/4/5=67/65/7/9/0例であった。切除され最終病理診断がついた15例(悪性13例、非悪性2例)の検討では、Class4以上を陽性とすると感度23%、特異度100%。Class3以上を陽性とすると感度46%、特異度100%の結果となり、既報のERP単回膵液細胞診やSPACE1検体分の感度特異度と同等の成績であった。以上の結果から当院では外来EUSの際に十二指腸液細胞診を行い、Class3以上であればサーベイランスの強化やSPACEへ進む判断材料としている。

※今回のご発表は、ぜひ論文化してほしいと内視鏡学会からご提案をいただいたとのことで、後日福永先生が論文化もしてくださります。

つまりどういうこと?

膵臓がんは増え続けており、日本のがん死亡数で胃がんを追い抜いて、肺がん・大腸がんに次ぐ3位のがんとなりました。アメリカでは数年前にすでに死亡数3位のがんとなっており、いずれ2位になると予測されています。

多くのがんが増えているのは高齢化によるものだとされていますが、この膵臓がんは数少ない、高齢化の要素を差し引いても増えているがんだという報告もあります。

膵臓がん対策の現状

世界的に増加し続けているこの膵臓がんを食い止めるのは、超優秀な外科医による奇跡的な手術でもなく、新しい抗がん剤でもありません。

現時点では、膵臓がんによる死亡を本当に回避するためにはStage0(目に見えないレベル)とStage1a(10mm以下で転移がないレベル)という早期の段階での発見と、それをしっかり取り切る手術しかありません。

早期診断の方法

この膵臓がん早期発見の方法がここ20年間ほどで、多くの膵臓専門の先生たちによって編み出され構築されました。

具体的には、以下の画像所見をきっかけとしてStage0の膵臓がんを疑います:

  • CTの限局性膵萎縮という画像所見
  • 超音波内視鏡における淡い低エコー
  • MRIの分枝拡張・主膵管拡張

そして入院して膵液を顕微鏡で何度も観察する検査(SPACEと呼ばれます)で確かながん細胞を確認して、最終診断に至ります。

現在の診断戦略の課題

この診断戦略にもまだまだ課題がいくつも残っています。最たるものは局在診断というテーマです(実際目に見えない膵臓がんが顕微鏡で診断されても、膵臓のどこにあるのか。それがわからないと膵臓のどこを切除すればよいのか確信が持てない)。

しかし、それは最後に残るテーマであって、そこに至る前にもまだまだ課題があります。

今回の発表の意義

今回の発表はそのうちのひとつ、体に負担のかかる検査や治療に進む前に、少しでも体に害のない検査で病気の確率を上げ下げしたいという課題を解決に近づける方法として、十二指腸液細胞診という古くて新しいものが有用かもしれませんという投げかけでした。

SPACEの問題点

膵臓がん早期診断において最終的に顕微鏡の診断に至る際、膵液という膵臓の中の膵管を流れている消化液を回収します。具体的には入院して鼻から膵管に管を突っ込んで、膵臓の中の純粋な膵液を回収して、何度も観察するという方法(SPACE)です。

これはStage0膵癌の診断に必須の、本当に唯一無二の検査法なのですが、以下の問題があります:

  • 入院が必要
  • 鼻から膵臓に管を通す負担
  • それに伴って膵炎を起こすリスク

そのため、できるだけSPACEを行うときは、「この方はもう絶対Stage0膵臓がんでしょう」と確信に至るくらいのときに最後の最後、最終確認として行うようにしたいのです。

しかし現実は、CT・MRI・超音波内視鏡でいくらStage0膵臓がんらしいと思っても、入院SPACEをしたら結局違ったり(がんではなく炎症による変化だったり)することがあります。

十二指腸液の可能性

一方、SPACEで検査に出されるこの膵液という液体は通常、膵臓の膵管を流れた後、最終的に十二指腸に流出して、食事を消化するという機能をもった消化液です。

十二指腸の液体の中には以下の4つの液体が混ざっています:

  • 膵液
  • 胃液
  • 腸液
  • 胆汁

もしもその4つの液体が混ざっていても診断に支障がなければ、わざわざ膵臓に管を突っ込まなくても、いつも胃カメラで観察している十二指腸から、大きな負担なく(胃カメラ程度の負担で)膵液(を含んだ十二指腸液)で検査ができるのではないかという考えがあります。

他施設での取り組み

十二指腸液が膵臓がんの診断において有用そうなことはすでに多くの大学病院の先生方が目をつけており、具体的にはその十二指腸液の中の遺伝子や物質を解析することで膵臓がん早期診断に結びつけようとされています(九州大学など)。

ただ、遺伝子や物質の検査は現状大学病院などで高い検査機器を使わないと行えず、多くの患者様で検査する段階にはまだ時間がかかりそうです。

立川相互病院での取り組み

私がいた立川相互病院も地域の総合病院でしたので、そのような研究的な検査が行えるはずはなく、なにか他に手はないかといつも考えていました。

きっかけとなった症例

そんなとき、膵臓のIPMNという病気の患者様で超音波内視鏡検査をしていると、Fish mouth signという、膵管から粘液が十二指腸液に溢れ出して渋滞しているようなところを偶然見かけました。

ちょうどその患者様がIPMNが悪性化しているかもしれない患者様で、顕微鏡の検査をいつかせねばというところでもあったため、世間で十二指腸液の検査が注目されていることも耳にしており、今見えているこの液体を回収できればと考えました。

さらに、実際入院してSPACEを行う際、病院によって文化が違いますが、たった1−2ccほどの膵液だけで診断しようとする病院もあることを知っていたため、その鬱滞した膵液をどうにか回収すればSPACEの膵液細胞診と同じことができるのではないか、と考えました。

具体的な方法

目に見えるその鬱滞した膵液を回収する方法として、吸引管という陰圧のかかった管の中間に試験管のようなものを介在させて吸い取るという方法があります(呼吸器内科が肺がんの診断で使ったり、消化器内科は結核の胃液診断や、大腸の感染症の腸液培養で使ったりします)。

それを使えば内視鏡の先に見えている液体を回収できるのではと思いました。また、それだけですと長い管の中にたくさんの水滴として液体が残ってしまい、その中に大事な細胞が残っているだろうと思ったため、最後に管の中の液体も余すことなく検査に提出するために、生理食塩水を吸引して洗い流した液体を提出する方法を考えました。

最初の成功例

結果、内視鏡画面に見えたわずか1−2ccの液体から、普段の入院して行う膵液細胞診よりも多いくらい多量のIPMN細胞が顕微鏡で確認され、がんの可能性があった患者様ですが、結局がんではなさそうという話になりました。その後追加検査も行われましたが、やはりがんではない良性のIPMNとして、その後数年間やはり悪性化せず経過しています。

十二指腸液細胞診の実用化

この1例をきっかけに、十二指腸液細胞診がもしかしたら有用な方法かもしれない、と検査に提出してみることにしました。

実際、十二指腸液細胞診というのは古くからある方法で、保険診療にも収載されており、もし保険診療が通りにくくても膵臓がん疑いの膵液細胞診という名目でしたら実際膵液も検査に出せているので間違いではなく、これまでの保険診療の範囲内で地域の病院でも試していける方法だとわかりました。

過去の日本の論文をあたってみると、まだ膵管に管を入れたりすることができなかった1970年代に口から十二指腸に管を突っ込んで、回収した十二指腸液の細胞診で診断できましたという古い報告以来、十二指腸液細胞診の報告は見つけられませんでした。実に50年ぶりに再注目される手法であることがわかりました。

懸念点とその解決

それでもまだいくつかの懸念点がありました。

細胞の状態について

最後、生理食塩水で洗い流すので、細胞がばらばらになってしまうかもしれないと思われましたが、むしろそれできちんと各種の異種な細胞がばらけて、見やすくなると細胞診断士の方からお言葉をいただきました。

混合液の判別について

また、十二指腸液細胞診は前述の通り、膵液・胆汁・十二指腸液・胃液・直近で飲食したものなどが混ざった混合液ですので、実際顕微鏡でみて何をみているかぐちゃぐちゃでわからないのではとも思っていました。

しかし、立川相互病院の優秀な細胞診断士の方々によると:

  • 膵管上皮と胆管上皮の見分けはなかなか難しい
  • しかし、胆膵上皮とその他の消化管上皮との見分けは容易
  • 胆膵上皮の有無や、胆膵上皮に異型(がん細胞)があるかどうかは案外はっきりわかる

そのため十二指腸液細胞診でがんが疑われたときは、胆のうがん、胆管がん、膵臓がんなどの可能性があります。それらの最終診断としては、全ての画像検査の追加や、やはり入院による内視鏡検査で直接膵管や胆管からの検査が必要となりますが、入院検査に進む前段階の検査としてこの十二指腸液細胞診の情報を加味すると、大変有用だということです。

スタッフの支援

同時に、立川相互病院の優秀な細胞診断士様たちからは、普段あまり勉強することのできない胆管上皮・膵管上皮の診断の訓練にもなってありがたいとのお言葉もいただき、しばらく十二指腸液細胞診を提出する支えにもなりました。

また、膵液細胞診や十二指腸液細胞診は検査の提出までに時間がかかってしまうと、細胞が変化してしまって使い物にならなくなるのですが、検査で回収した十二指腸液をすぐに細胞検査室まで運んでくださる役割は、立川相互病院の優秀な内視鏡看護師様たちがいやな顔せず担ってくださいました。本当に感謝しています。

4年間の成果

長くなりましたが、そんな経緯で始まった十二指腸液細胞診ですが、計4年間続けているうちに、感度が低く、特異度が高そうということがわかってきました。

つまり:

  • 十二指腸液細胞診で陰性と出ても実際はしっかりがんがあることがある
  • しかし、十二指腸液細胞診で陽性と出たときは実際がんのことが多い

これは入院して膵管に管を突っ込んで行う膵液細胞診でも同じことが言われており、それに匹敵する成績になっているかもしれないという感覚を持っていました。

福永先生による研究発表

そこで私がクリニックの開業に舵を切ってしまったため、ついに4年間行ってきた十二指腸液細胞診をまとめきることなく立川相互病院を去ってしまいました。

そんなとき、私のやっていた膵臓がん早期診断に興味を持ってくれて、その価値に気づいてくれて、私の意志を引き継いでくれて、さらにそのデータをまとめて発表してくださる福永先生という大変賢い先生が現れ、私が立川相互病院を去った後に、過去のデータをきれいにまとめて今回発表してくださったというわけです。福永先生には感謝してもしきれません。

研究結果

結果は、やはり外来で簡単に行える十二指腸液細胞診は、入院して行われる膵管に管を突っ込んで回収する大変な方法と遜色のない検査性能がありそう、という結論と、150例やって膵炎のような合併症は一度も発生しなかったという安全性も確認できる結果でした。

さらに、多くの病院ではSPACEを行っても実際膵臓がんが出る可能性は半分以下と少ないようですが、立川相互病院では十二指腸液細胞診による影響もあってか(ここは詳しく検討していません)、14/17例(82%)の確率でがんが出たという結果になりました。

立川相互病院のSPACEの陽性率の高さはSPACEに進ませる検査閾値の高さもあったかと思いますが、十二指腸液細胞診という判断材料も影響したのではと考えています。

ちなみに余談ですが、立川相互病院では4frという細い管でしかSPACEを行わなかったため、SPACEによって重症膵炎になった方はいません(軽症膵炎は既報通り3割ほどいました)。

実臨床でのメリット

話は変わりますが、膵臓専門外来の実臨床においては、十二指腸液細胞診には、上記以外にもいくつかのメリットがあると考えています。

IPMNの診断

ひとつは、よくあるのが小さな膵のう胞が小さなIPMNなのか早期慢性膵炎の分枝拡張なのかわからないという場面で、十二指腸液細胞診でIPMN細胞が出たら、IPMNと思ってサーベイランス(その後の検査計画)が立てられるということです。

悪性の可能性の発見

また、良性IPMNだと思っていたが念の為十二指腸液細胞診を提出したら意外に悪性の可能性が示唆されることがあります。そんなときは画像所見ではわからないところに悪性細胞があるかもしれないと考え、本来行うつもりのなかった検査を追加したり、本来半年後でよいかと考えていた次回の検査計画を慎重に3ヶ月後に変更したりすることができます。

検査の判断材料

早期の膵臓がんの可能性がある方でも同様で、わずかな画像所見の変化がある方で、まあ大丈夫だろうと思いつつも、念の為十二指腸液細胞診を提出してみたら案外悪性の可能性があると指摘され、改めて画像所見を見直したり、次の検査感覚を狭めたりできます。

あるいはSPACEに進むか本当に悩ましいとき、十二指腸液細胞診が陽性になると背中を押されます。患者さまにSPACE入院をおすすめするときの説明材料にもなります。実は前回の検査で少し怪しい細胞がでているため、と。

胆道がんへの応用

あとは、前述の通り十二指腸液は胆汁と膵液が混ざっているため、早期診断の戦略が乏しく未だに多くの方が命を落としている胆のう癌や胆管がんの早期診断の一助になる可能性も期待しています。

立川相互病院でも1例、胆のう管癌が疑われた患者さまで、PTGBDという胆のうの中に入った管からの胆汁細胞診と、十二指腸液細胞診で全く同じ細胞診の結果が得られた(炎症かがんか区別がつかないががんの可能性があるという結果)ということがありました。胆道がんが怪しいときの外来での1stステップの検査としても、十二指腸液は有用な可能性があります。

注意すべき点

一方、感度が低い(十二指腸液細胞診が陰性であっても、あまりがんの否定はできない)ため、十二指腸液細胞診が陰性だったときの解釈には注意が必要で、間違って安心してはいけません。

特に、膵臓専門でない先生が超音波内視鏡検査をオーダーしてくださったときに行った十二指腸液細胞診が陰性と出たときに、「がんじゃなくてよかったですねー!」と患者様に説明してしまうことがあり、それは少し違うという話になります。

最後に

大変長くなってしまい失礼しました。

今後はクリニックで超音波内視鏡検査や、今回の十二指腸液細胞診を続けて、少しでも膵臓がんで悲しむ方を減らせたらと考えています。今後ともどうぞよろしくお願いします。


※よく、私の身内に膵臓がんで亡くなった方がいるからそこまで膵臓がん早期診断に注力するのか、と聞かれますが、私の身内に膵臓がんの方はいません。

ただ、今まで出会った患者様の中で、助けられない膵臓がんによって大きく悲しまれる方があまりに多かったのと、そんな患者様やご家族が、本当に打つ手がなくなってしまっても私を大変信頼してくださった想いがずっと忘れられず、どうしたら運命を変えられただろうと常に探し続けています。

記事監修者

院長 谷口 孝伸

院長 谷口 孝伸

日本内科学会 認定内科医 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本肝臓学会 肝臓専門医

弘前大学を卒業。立川の地で12年間、消化器内科医として研鑽を積み、甲府共立病院・がん研有明病院にて大腸カメラ、超音波内視鏡等の専門的な検査技術を習得。2024年8月、立川髙島屋S.C.大腸胃食道の内視鏡・消化器内科クリニック開設。

詳しい経歴や実績については、こちらをご覧ください。

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