2025年5月13日

楽しみにしていた焼肉やステーキを食べたあとに、急にお腹がゴロゴロ…そんな経験はありませんか?お肉を食べた後に下痢をしてしまうのは、体調の問題だけでなく、調理法や体質、感染症などさまざまな原因が隠れています。
本記事では「なぜお肉で下痢になるのか?」という疑問を、消化器内科専門医の視点から丁寧に解説。さらに、原因別の対処法や予防のコツまで詳しく紹介します。
お肉を食べると下痢になるのはなぜ?
お肉を食べたあとに下痢になる理由は、いくつかの要因が絡み合っています。
まず、お肉は消化に時間がかかる食材です。とくに脂肪分が多い部位や揚げ物などの調理法は、胃腸に負担をかけやすく、消化不良を起こすことで下痢につながることがあります。
また、生焼けの鶏肉や牛肉には、カンピロバクターやサルモネラ菌といった細菌が潜んでおり、食中毒を引き起こす可能性もあります。さらに、肉に含まれるたんぱく質に対する食物アレルギーや、ストレスなどによって腸が過敏に反応する「過敏性腸症候群」が関係している場合や、「慢性膵炎」など膵臓が弱って消化酵素がうまく働かず下痢になっていることもあります。
このように、肉が原因の下痢は、調理法・体調・感染症・体質などさまざまな要素によって引き起こされるのです。
よくある原因
消化不良
お肉を食べたあとに下痢になる原因として、もっともよく見られるのが「消化不良」です。
お肉はたんぱく質と脂肪を多く含み、これらの栄養素は消化に時間がかかるため、胃腸にとって負担が大きくなります。とくに、加齢や疲労、ストレスなどで胃腸の働きが弱っていると、十分に消化されないまま腸に送られてしまい、腸内での発酵が進んでガスが溜まったり、下痢を引き起こしたりします。
また、早食いや噛まずに飲み込む癖がある人は、食べ物が大きな塊のまま胃腸に送られるため、さらに消化不良を招きやすくなります。冷たい飲み物と一緒に肉を食べることも、胃腸の動きを鈍らせ、消化を妨げる要因となります。
脂っこい肉・揚げ物
脂っこい肉や揚げ物を食べたあとに下痢をする場合、その原因の多くは「脂質の摂りすぎ」にあります。
脂質は消化に時間がかかるうえ、過剰に摂取すると腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を活発にしすぎてしまい、便が水分を十分に吸収される前に排出されてしまいます。その結果、水の様な便や腹痛をともなう下痢が起こりやすくなるのです。
とくに注意が必要なのは、牛の霜降り肉や豚バラ肉、唐揚げやトンカツなどの揚げ物です。これらの料理は脂質量が非常に多く、胃腸に大きな負担をかけます。また、脂質が多い食事をした直後に冷たい飲み物をとると、さらに胃腸の動きが悪くなり、消化が妨げられることもあります。
脂質に敏感な体質の方や、脂質の分解が苦手な体質の方は、脂質のとり過ぎには注意しましょう。
食中毒(カンピロバクター・サルモネラ・O-157など)
お肉を食べて数時間から2-3日ほど経ってから腹痛・下痢が始まった場合、食中毒が原因の可能性があります。とくに多いのが、カンピロバクターやサルモネラ菌などの細菌感染によるもので、生焼けの鶏肉や牛肉、加熱が不十分な内臓系の肉類に含まれていることがあります。
これらの細菌は胃酸に比較的強く、腸に達してから感染を引き起こします。
症状としては、水のような下痢、血便、発熱、吐き気、腹痛などが現れ、感染性胃腸炎と同様の経過をたどります。とくにカンピロバクターは日本国内での食中毒原因としても頻度が高く、感染後にギラン・バレー症候群などの合併症が起こることもあるため注意が必要です。O-157などの病原性大腸菌はご存知の通り重症化すると命取りになることもあります。
食中毒を防ぐには、お肉の中心までしっかり加熱すること、まな板や包丁の使い分け、生肉に触れた手や調理器具をきちんと洗浄・消毒することが重要です。
アレルギーや過敏性腸症候群の可能性
お肉を食べたあとに毎回のように下痢をする場合、アレルギーや過敏性腸症候群(IBS)の可能性も考えられます。
アレルギーといえば蕁麻疹や呼吸困難といった強い反応を思い浮かべがちですが、実際には腸に症状が出る「消化管アレルギー」というものが存在し、下痢や腹痛として現れることがあります。特定の動物性たんぱく質(牛肉・豚肉・鶏肉など)に対する軽度のアレルギー反応が、腸の炎症を引き起こしている可能性があるのです。消化管アレルギーは病院の検査による診断が案外むずかしいので、普段の生活の中でご自身で推理していただくのが最も近道です。それらしいと思ったら怪しきお肉を1-2週間抜いてみて、症状が改善するか試されるとよいでしょう。
また、ストレスや緊張によって腸が過敏に反応してしまう「過敏性腸症候群(IBS)」も下痢の原因になります。とくに、脂っこい食事や動物性たんぱく質の摂取がきっかけとなって、腸の蠕動運動が乱れ、普段の過敏性腸症候群が一時的に悪化することがあります。IBSは体質的なものだけでなく、日々のストレスや生活リズムも影響するため、できるだけ負担がかからないような生活を心がけましょう。
慢性膵炎などの病気の可能性
膵臓はお肉などの脂質を消化する消化酵素(消化液、膵液)を出しています。膵臓の機能が落ちると、お肉の脂質を分解する力が落ちて、お肉を食べたあと下痢になるという症状が出ます。これまでの人生でお酒たばこが多かった方は慢性膵炎の可能性もありますので、一度消化器内科へご相談ください。腹部エコー検査や腹部CT検査で慢性膵炎の診断ができます。早期慢性膵炎の場合はMRIの検査がよいです。
肉を食べた後の下痢|受診の目安とセルフチェック
お肉を食べたあとに下痢をした場合、多くは一時的な消化不良や脂質の摂りすぎが原因であり、自然に回復することがほとんどです。しかし、次のような症状がある場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
受診の目安
・下痢が2日以上続いている
・発熱(38℃以上)や悪寒を伴う
・血便が出る
・激しい腹痛や嘔吐がある
・水分がとれず脱水状態が疑われる(口の渇き、尿量減少、ふらつき等)
セルフチェックポイント
・最近1週間で生焼けのお肉を食べていないか?
・同じものを食べた家族や同席者も体調不良を訴えていないか?
・普段から同じような症状を繰り返していないか?
このような情報を整理しておくことで、診察時にスムーズに状況を伝えることができ、より正確な診断や治療につながります。特に繰り返す下痢や発熱・血便がある場合は、放置せずに早めの受診を心がけましょう。
肉で下痢になったときの対処法
お肉を食べたあとに下痢になってしまった場合、まずは無理に食べ続けず、胃腸を休ませることが重要です。下痢のときには腸が過敏な状態になっているため、消化に良い食事と適切な水分補給を心がけましょう。
食事のポイント
・食事は一度中止し、半日〜1日は水分中心に
・食べる場合は、おかゆ、うどん、すりおろしリンゴなどの消化にやさしいものを選ぶ
・肉や油もの、乳製品は避ける
水分補給
・脱水予防のため、経口補水液(OS-1など)やスポーツドリンクを少量ずつこまめに
・嘔吐がある場合は、スプーン1杯からゆっくりと
無理に食べたり、下痢止め薬で止めようとしたりすると、かえって症状が長引くことがあります。体を休めながら、自然に回復するのを待つことが大切です。
下痢を予防するための肉の食べ方と調理のコツ
お肉を食べたあとの下痢を予防するには、「どのように食べるか」「どう調理するか」が非常に重要です。ちょっとした工夫で胃腸への負担を減らすことができます。
食べ方の工夫
・よく噛んでゆっくり食べることで、消化酵素が働きやすくなる
・一度に大量に食べず、少量ずつ複数回に分ける
・冷たい飲み物と一緒に食べるのを避け、胃腸の働きを助ける
調理のポイント
・火が中心までしっかり通るように焼く
・揚げ物よりも「蒸す・煮る・焼く」など油を控えた調理法を選ぶ
・赤身肉など脂質の少ない部位を選ぶと消化がスムーズ
また、調理中は生肉に触れた手や器具をこまめに洗うことも、食中毒予防には欠かせません。お肉は栄養価の高い食材ですが、体調や調理法を考慮せずに食べると下痢などのトラブルにつながることもあります。賢く調理し、適切に食べることで、安心してお肉を楽しむことができます。
まとめ
お肉を食べたあとに下痢になる原因は、消化不良や脂質の摂りすぎ、食中毒、体質的な要因、膵臓の病気などさまざまです。ほとんどの場合は一時的なもので、食べ方や調理法を見直すことで予防が可能です。しかし、症状が長引く場合や、発熱・血便などがある場合は、食中毒や他の病気の可能性もあるため、早めに医療機関を受診することが大切です。
体調に応じた適切な食べ方や調理法を心がけ、胃腸にやさしい食生活を実践することで、お肉を安心して楽しめるようになります。気になる症状があるときは自己判断せず、消化器内科の専門医にご相談ください。